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ファッション経営戦略 講座リテイル・マネジメント(1970年)解説

ファッション経営戦略 (1970年) (講座リテイル・マネジメント)

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この書籍は船井幸雄が船井総合研究所(創業当時 日本マーケティングセンター)を創業した年に出版した3冊目の書籍。当時、船井幸雄先生37歳で繊維関係主体のコンサルタントから量販店・スーパーのコンサルタントへ領域拡大を図っていた。

おすすめしたい方→マーケティングを正統的に勉強したい方

(目次)
Ⅰ章 「安もの」に興味を示さなくなった客
Ⅱ章 ファッション時代はくる
Ⅲ章 未来学からみたファッション産業
Ⅳ章 生活関連産業は今後どうなるか
Ⅴ章 ファッション産業への道
Ⅵ章 ファッション時代の小売業未来学
Ⅶ章 ファッション化にともなう企業戦略
Ⅷ章 ファッションと流通産業

本書は1970年の万博を前後に急速に生活先進度を高める日本の状況を分析し、所得が急速に伸び始めており「安くて悪い品物」から「高くても良い物」を求める姿に消費者が変化していると見抜いている。これは日本人が既に買い求めることが出来る力を持ち出したということであり、ここでいう「高くても良い物」は今振り返ると現在の「高くても良い物」とは意味が違うことがわかる。その根底には生活者の欲求や欲望の高度化は抑えることができず、やがて個性化を求める生活者が全てのものにファッション化=個性化を求めるようになってくるというわけである。ここではマズローのいう欲求五段階説に類似した四段階の欲求変化が述べられている。第一段階は 量が主体でマス最適。これは安さを求める(所得が低く商品がある)時代。第二段階は、質が主体でマス・ファッションが最適。これはカッコよさ、性能のよさを求める 第三段階は、個性化が主体でファッションが最適。ピッタリしたもの、地位にフィットしたものを求める 第四段階は 心理的満足が主体でモードが最適。自我と優位性を満たせるものを求める。この第一段階はマズロー仮説の第二段階である安全の欲求、第二段階は同じく社会性の欲求、第三段階は同じく自我の欲求、第四段階は同じく自己実現の欲求を参考にしたと考えられる。現場コンサルタントとして実務で取り組む中、衣料品関係でこれらのルールの正しさを悟った船井幸雄先生は衣料品だけでなく住関連、余暇関連=サービス業などの他産業にもファッション化=欲求の高度化対応としての付加価値化がおとずれると見抜いたわけである。今では違和感がないものの昭和40年代中盤の状況を考えるとこの未来を見つめる視点は相当斬新であり、一般の人があまり気づかなかった視点であろう。ただしこの時点では食品に関しては例外としてみていたようであるが、これも後日修正し食品にも同様の傾向があると説明されていくことになっていくのだが・・・。

また時系列から考えた将来の経済の状況予測を事例列発展理論として船井流が採用するライフサイクル論からの考察につながる流れを作っている。このような理論の中で将来を予測すれば、著書の執筆時点、ちょうどGNPで世界第二位の経済大国になったこの時点でもメーカー発想の面取り合戦にあけくれるだけの経営ですませるのではなく買い手主体、買い手としての人間主体の世界の到来に対応してメーカーと小売業は変革を考える必要がある。そうでないと単に物を流す発想では行き詰ると説いたわけである。また、商業を効率重視で工業化・パターン化して非人間化することの間違いを指摘している。逆に工業こそ商業化させるべきだと説く。ここでいう商業化は最終消費者側に立つ論理で企業経営をしなければいけないということである。

このように船井流の根本思想の「成熟化の時代、超競争時代がやってきても勝ち残る経営」の考え方は昭和45年の初頭に固まったという事がわかるのであり船井流研究家としてはとても興味深い。

本書は三冊目の出版ということで文章に堅さが抜け、一冊目、二冊目の書籍に見られたデータ分析にもとづいた考察部分以上に船井幸雄の独自の理論、視点のウェイトが高まってきているのが面白い。また第一冊が出版されてからの2年間の間に船井幸雄先生自体の思考がマス中心から正反対のアンチ・マスへ(正確にはマスを否定しているわけではなくマスの限界を考えた脱マス、超マス理論と考えるのが正しい)の心境の変化も述べられている。また企業経営を考えるときに経営者の役割の大きさを自然と考えるようになってきており徐々に経営者を通じて人間の研究が始まったことも理解できる。それは①人間性がいかに大切であるかを知り、②ムリは絶対にいけないことを悟り、③時流適応こそ企業経営の最大のコツであることを知った というまえがきから理解できる。

なお、まえがきに本書は昭和45年6月の繊維業界トップのための第三回流通戦略セミナーの内容を主として既述されていること、これまでに出版された1冊目の書籍「繊維業界革命」が昭和44年5月の第一回流通トップセミナー、2冊目の書籍「繊維流通戦略」が昭和44年11月の第二回トップセミナーであるとも説明されている。

  • 作成:2009-08-23 (日) - 岡 聡コンサルタントブログ
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