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省くという選択

毎日の新聞を眺めていても節約モードの消費がすすみ、低価格化時代が到来したとか、小売業のプライベートブランド商品が強いとかという記事が踊っています。

メディアからもよく低価格現象をどう見るかとか、PB商品が流通を本当に変えるのかというような質問を今年になって本当に良く聞かれています。

昭和35年生まれの私はリーマンショック以降の急激な経済と価値観の変化が100年に1度の危機といわれる中、その危機の中、これ以降の企業経営のあり方を考えざるをえないしクライアントにお話ししなければならないわけですが、自分の経験範囲内で日本全体が大きな方向転換を迫られたオイルショックの時のことをよく思い出すようになりました。

当時子供だった私にも、景気が悪くなってきた中で起こったオイルショックがパニックを起こし、トイレットペーパーが街から姿を消したような事件を鮮明に覚えています。日本中の意識が日本列島改造時代の高度経済成長神話から一気に谷底に突き落とされ消費だけでなく節約という意識が改めて生まれたような時代でした。その後、再度日本は元気を取り戻していったわけですが、あの時の消費=一般大衆の美徳の価値観が、節約=賢者の価値観に変わった瞬間の思い出は鮮烈な事件として思い出されるわけです。

話を戻します。その後日本はプラザ合意をきっかけとして再び好景気からバブル景気となり、そしてそのゆり戻しとしてのバブル崩壊、失われた10年を経験することになりました。そして今、まさに世界中が資本主義の矛盾と金融システムの不備が原因となって複雑な状況に陥っています。時代はやはり正反合と揺れ動くわけです。

確かに今の時代は物がなかなか売れず、低価格商品を販売している企業は相当元気があります。しかし片方では資源高によるコスト増が押し寄せてきています。これは世界的な資源ストックがタイト化しているという現実を背景とした構造問題であることは間違いないわけです。ですから日本だけの努力では解決できないはずです。そういうところから考えてみても単純な低価格対応に舵を切りすぎることは賢明ではないはずだと強く感じるわけです。確かに年収400万未満の世帯が44%と増加を見せており低所得世帯への対応は必須です。まさに収入が伸びない時代の経営法のマスターと低所得者対応は時代の本命トレンドなのです。ところが価格競争の末路は小資本の企業以上に大資本の企業の方が有利であることも明らかなのです。

この常識を覆せるのは生業的な発想でコストがかからない構造の中でガムシャラに働く企業だけのはずなのです。つまり一般の企業は緊急避難的に低価格商品を売り出すのは良しとしても、自分たちの利益を削る単純安売り戦法では限界が早晩出てきてしまうわけです。だからこそ低価格化やPB商品戦略は「安く売る」「上代価格を下げる」戦略ではなく、本来は削るところを削り、省くところを省くことによって合理的な低価格を引き出す戦略であるということをしっかりと意識しなければならないということだと忘れないで欲しいと説明することが多くなっているわけです。

考えてみれば、日本も豊かになりすぎてコンビニでの弁当廃棄、スーパーでの惣菜や刺身の廃棄、ゴミの増加など世界のどの国を見ても過剰生産、過剰消費の国になってしまっていることは明らかです。あまる物は余り、足りないものは足りない、富める人は富み、貧しい人は相当貧しいという偏在が起こっているわけです。そういう国の中での低価格化要請なのですから、最終到達系のあるべき姿は要らないもの、時代にあわないものを低価格にするのも間違いですし、存在価値があるものは低価格化しなくても売れるべきものは売れるわけです。ただそれだけでは買えない人が増えてきたから、新しい発想で低価格化志向に対応しなければならないわけなのです。

そう考えると低価格=安いではなく、低価格=過剰なもの、不必要なものを省く、取り除くという発想が大切なことがわかりますし、それは物の中身だけではなく物作りの仕組みも同様であり、販売の仕組みも、取引先との受発注をはじめとする商流、物流、金流、情報流の流れも不要なものは取り除き合理的設計に取り組まなければならないということがわかります。それはコンセプトで表現するとリーズナブルという表現ではなく”シンプル”ではないか。私はそう思えてならないわけです。今の豊かな暮らしは捨てがたいと思います。

ただ10年前、20年前の日本の生活が苦しくつらいものであったかというとそうでもなく、十分に豊かで楽しいものであったとも思うのです。今の時代、不要なものを取り除き、捨て去るものは捨て去るとシンプルに決意して行動することが競争力の源泉となっているのだと思います。


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  • 作成:2009-09-01 (火) - 岡 聡コンサルタントブログ
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