買いたくても買えない。買いたくても買うものがない

流通関係の専門コンサルタントである私は、クライアントから「どうすればもっと自社商品が売れるか」「どうすればもっと買ってくれるお客様を見つけることができるか」という質問をよく受けます。これはマーケティングの４Ｐのプロダクト＆プライス、プレイスを聞かれていると捉えることができますし、言葉を変えるとマーケティングとセールスのことを聞かれているとも言えましょう。

それらの質問に答えるときに思考のプロセスは

１）商品のターゲット市場は右肩上がりか右肩下がりか
２）右肩上がりなら一番化は可能だろうか。右肩下がりなら一番化したときにおいて期待通り収益を獲得することができるか
３）右肩下がりで十分に収益を獲得することができないとするならば商品、ブランドの見直しによって収益獲得が可能か
４）右肩下がりでなおかつ商品、ブランドの見直しが不可能となれば、スムースな撤退と新商品、新ブランド投入または新事業参入が可能か

これらのことを競合の攻撃や参入を頭にいれながら考えます。一般の方よりもコンサルタントのチェックポイントとその基準そして何より原理原則にそった考え方、過去の事例などの引き出しが多いわけですから、事前に情報が無くても可能性としてこういう風なことが考えられ、期待できるというようなお話は可能です。このような経営相談は実に多く、毎月いろいろな方へのご回答をしています。

そういう中でユニクロやＧＡＰ、Ｈ＆Ｍなどのファストファッションが売れているということで、同様のＳＰＡ的商品開発、もしくはＥＤＬＰ商品やＰＢ商品開発を行いたいという話も多くでます。ただし多くの企業は現状の捉え方が間違っているよように思います。それは日本国内も低価格で質の高い商品が売れる先進国的で成熟した時代になったわけだからデフレやファストファッションのブームも悪くないのではという意見です。一理はあると思いますが、私はファストファッションやＰＢ商品の流行の本質は「所得の低下でこれまでの生活レベルを支えきれない」。だから「買いたくても買えない消費」というのが本当の理由だと思っています。だからこそ全メーカーがＰＢ商品やＳＰＡ化に流れるのは危険と思っています。その方向に流れすぎると「買いたくても買うものがない」という状況に陥りかねないからです。こうなると正に国内消費が不振に陥ります。特に海外生産の低価格商品が独りがちすると雇用不足にも拍車がかかりますから、まさに”ユニクロ栄えて国滅ぶ”になります。

将来を考えると危惧されるのが、さらに「買いたくても買えない」は更に進むと考えられます。つまりユニクロレベルさえ、買えない。だから「買えない」という状況を隠すために「そんなものは買わなくても良いのだ」と正当化して消費が縮んでしまうという流れが生まれてくるはずです。それは世界の中の日本という視点で考えれば大きな問題です。世帯所得からみるとそういうシナリオも高い確率で考えられます。ですが、言葉を変えれば先進国中、もっとも最貧国と最近影で呼ばれるようになりはじめた日本が、新興国の富裕層に抜かれ続け、本当に貧しい国になってしまうことにつながるように思うわけです。

最近は所得の高い芸能人まで番組でディスカウント店での買い物を自慢するような風潮です。これはとっても困ります。所得の高い人を満足させるような物づくり基盤が徐々に失われるのも問題です。低価格で十分というようなムードで、成長志向をあきらめさせるようなマスメディアの報道や姿勢も問題です。人間の生活は「高くてもいつかは買いたい」「難しくてもいつかは行きたい」という物や場所、そして「無理かもしれないが努力していつかはあの人のような人になりたい」という意欲が持てる環境を用意することによって向上していくことが基本だということは忘れないでいただきたいと思います。売れる商品
開発、売れる商品探索ではそういう意識も重要なのです。